畑に隠された宝
マタイによる福音書 第13章44節
川崎 公平

主日礼拝
■ある日、イエスさまは弟子たちに、天の国の話をしてくださいました。「いいかい、天の国っていうのはね、畑の中に宝が隠されているようなものなんだよ」。そう言って、イエスさまはこんな話を始められました。
あるお百姓さんが、新しい畑を探していました。「うーん、いい場所ないかなあ……」。すると、ある人がやってきて、そのお百姓さんに言いました。「どうですか、この土地、買いませんか」。でも、その土地を見てみると、狭くて、その上汚くて、石だらけ、ゴミだらけ。どう考えてもその土地を買いたいとは思いません。
念のため値段を聞いてみました。「うーん、あまりいい土地には見えないけど……いくらで売ってくれるの?」「100万円でどうでしょう」。「は、はあ? 100万円? 冗談じゃないよ!」
すると、その人がそっと耳打ちして言いました。「いいことを教えてあげますよ。この地面の下にはね、100億円以上するダイヤモンドが埋まっているんですよ」。「ひゃ、100億円? それ、ほんと?」「本当ですとも。嘘をついているような顔に見えますか?」(真剣な顔)……確かに、嘘をついているようには見えません。
それで、そのお百姓さんは、その狭くて汚い土地を買いました。100万円はどうしたって? そのお百姓さんも、100万円なんてお金は持っていなかったので、大事なものを全部売り払って、子どもの頃から大事にしていたおもちゃや漫画も全部人に売ってお金に換えて、その狭くて汚い畑を買いました。
周りの人は、そのお百姓さんを見て馬鹿にしました。「あいつ、ほんと頭悪いよなー。あんな狭くて汚い土地なんか買っちゃって。あいつ、あの土地いくらで買ったと思う? 100万円だって。その100万円を集めるためにさ、何度もブックオフとか行ってるんだぜ? ぎゃはは、ぎゃはは、ほんと、あいつ、馬鹿」。けれどもそのお百姓さんはとても幸せでした。だって、その畑の中には、100億円以上のダイヤモンドが……。
イエスさまは言いました。「わかったかい。天の国っていうのはね、畑の中に宝が隠されているようなものなんだよ」。
■それを聞いた弟子たちは、ポカーンとしました。「え? 何、今の話?」さっぱりわけがわかりません。「何だったんだろう、今の話……」。「おい、今の話、意味わかった?」「いや、全然わかんねえ。いつもイエスさまの話は難しいことが多いけど、さっきのは特にわからなかった」。
ところが、ひとりの弟子が「あ! わかった!」と叫びました。「イエスさま、わかりました!」イエスさまはとてもうれしそうな顔で、「そうか、わかってくれたか」。するとほかの弟子たちは言いました。「ええ? お前、さっきの話、わかったの? どういう意味?」そのお弟子さんは言いました。「畑の中に隠された宝ってのはね、イエスさまのことなんだよ」。「あ、そうか!」またほかのお弟子さんが声を上げました。「そうだよな、イエスさまのことだよな」。
イエスさまの周りには、いつも12人の弟子たちがいて、いつも一緒でした。寝るのも食べるのもいつも一緒。そんな弟子たちに、時々こんなことを言ってくる人たちもいました。「お前らさあ、どうしてあのイエスっていう先生とずっと一緒にいるの? なんかいいことでもあるの?」そんなことを聞かれても、弟子たちはうまく説明ができませんでした。そう、まるでさっきの話に出てきた狭くて汚い土地のように、正直、自分たちも、どうしてイエスさまについて行く生活をしているのか、うまく説明ができなかったんです。よくわからないけど、やっぱりこのお方から離れるわけにはいかないので、それはなぜかと言うと、いつの間にか、この12人の弟子たちは、畑の中の宝に気づかせていただいたのです。
「そうだよ、おれたちは、宝を見つけたんだよ。本当によかったなあ。ほかの何を犠牲にしたって、このお宝を手放すわけにはいかないよな。イエスさま、本当にありがとうございます」。
その弟子たちの確信は、日に日に強くなっていきました。まあね、正直、イエスさまと一緒にいても、お金がもうかるわけでもないし、みんなから尊敬されるわけでもないし、よくわからないって言ったら確かにそうなんです。イエスさまと一緒にいたって立派な家に住めるわけでもないし、きれいなお洋服を着られるわけでもありません。むしろ、イエスさまも弟子たちも、決まった家なんか持ちませんでした。いつも、どちらかと言えば汚い格好で過ごしていました。けれども、イエスさまの語る言葉。イエスさまのなさる奇跡。一緒にいればいるほど、この方こそ、わたしの救い主、世界の救い主だ。この畑の下に、とんでもない宝が隠されているんだ。だから、絶対に、このお方から離れてなるものか。弟子たちは、そう思いました。
■それからしばらくして――しばらくって、どのくらいでしょうか。1年くらいですかね――イエスさまは弟子たちと一緒に都エルサレムに行きました。弟子たちの期待はいよいよ高まります。「さあ、いよいよその時が来たぞ。おれたちの宝が、畑の中から掘り出されて、100億円、1兆円、いや、それどころじゃない。イエスさまが遂に、世界の王さまになるんだ!」
と、思ったのもつかの間、あっという間にイエスさまは武器を持った人たちに捕まってしまいました。誰もこのお方を、宝だとは認めませんでした。弟子たちはすっかり怖くなって、全員、イエスさまを見捨てて逃げました。そして、捕まってしまったイエスさまは、そのまま死刑の判決を受けて、十字架につけられました。十字架の上で、イエスさまは叫びました。「わたしの神よ、わたしの神よ、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」。そんなイエスさまを見て、弟子たちは、思いました。「ちくしょう、すっかりだまされた! あんな狭くて汚い畑の下に、ダイヤモンドなんかあるわけがないじゃないか」。
そしてそのあとも、弟子たちは誰も、二度とあの宝を探そうとは思いませんでした。そりゃそうです。死んだら全部おしまいなんです。二度と取り返しはつかないんです。「畑の中の宝なんて、最初から、全部うそだったんだ」。弟子たちは、暗い顔をして、自分の家に帰って行きました。誰も、もう一度あの宝を探そうなんて、考えもしませんでした。弟子たちが探さなくても、宝のほうから、弟子たちのところに姿を現してくださいました。墓の中からお甦りになったイエスさまが、弟子たちの前に立ってくださって、「わたしがあなたと一緒にいるよ。世の終わりまで、わたしがあなたがたと一緒にいるんだよ」。そしてその時、イエスさまはもう一度同じことを言われたかもしれません。
「わかったかい。天の国っていうのはね、畑の中に宝が隠されているようなものなんだよ」。
■弟子たちは、びっくりして、「すごい宝だ……」。それでこの弟子たちも、畑の中の宝のことを世界中の人に伝えに行きました。
「皆さん、聞いてください。天の国とは、畑の中に隠された宝のようなものなのです。わたしたちが十字架につけたイエス・キリスト、誰もこのお方を大事にしませんでしたが、この方はお甦りになりました。この方こそ、すべての人の救い主です。どうか、この宝を手に入れてください。どうか、この命の宝に生かされてください」。
ある人は、その言葉を聞いて無視しました。ある人は、馬鹿にしました。けれどもまたある人たちは、その言葉を聴いて、その言葉を信じて、イエスさまに出会うことができました。そうして、イエスさまの教会は世界中に広がっていきました。今、ここに生きる、教会の話です。それでは、今日のお話はこれでおしまい。お祈りをいたします。
神さま、あなたの遣わされたイエスさまが、狭くて汚い畑にしか見えなかったのは、わたしたちの目が狭くて汚かったからでしかありません。今は、よくわかりました。どんなことがあっても、イエスさまから離れたくありません。感謝して、イエスさまのみ名によって祈り願います。アーメン











